荻原浩「明日の記憶」

「君がそういうのを読むの?」と、ピンクルが言った。カメはミステリかSFみたいなジャンルしか読まない生き物だと思っていたのかもしれない。

 実際のところ、高校に入るくらいまでは、あまりジャンルに差別はせず、なんでも読んでいた。ミステリかSFでないとあまり手を出さなくなったのは、自分にとって面白い、あるいは興味深いのは、これらのジャンルのうちにあるようだ、と思い定めたからだ。ミステリは小学校低学年の頃からの筋金だが、SFについては当時「どのジャンルの中でも最も人間の心とか魂とか神とかについて真剣に考え得る分野」と考え詰めていて、その結果、他のジャンルを読む意義を感じられなくなっていたのだ。

 ミステリを楽しみとして読み、SFを生きる糧として読む。高校から大学あたりでは、そんなふうに意識をしていただろう。
 いつかSFはアニメの原作かノベライズのような部分に浸食され、糧などというタイプとは画されてしまった。逆にミステリの中に、SFのように宗教や哲学の骨組み・巨きさはないが、人間個人についての物語をプロット・テーマとしたものが顕れ始めた。
 今のわたしは殆どSFを読まなくなってしまったので、現状は知らない。たまさか、ネット上の感想文等で興味を惹かれたものに手を出してみるくらいだ。

 さて、この「明日の記憶」も実は同じようにネットの書き込みから存在を知って読んでみたものだ。
 記憶、心、人格、意識、魂。そういったものを書くのにSFは最も適したジャンルだと思っていた。しかし、今ではミステリの分野でそうしたテーマの佳作傑作が生まれ出している。そして、「普通小説」にも。
 北川歩実の「透明な一日」を読んで『前向性健忘症』の存在を知り、触発されて小川洋子「博士の愛した数式」を読んだ。
 この「明日の記憶」は、読んでいくと実は「アルジャーノンに花束を」に他ならないのだが、「アルジャーノン」が特別な個人の物語であるために対岸のこととして同情したり感動したりもできるのに比べて、あまりにも身近な「一例」でありすぎる。エンディングは、これほどつらい幸福があるだろうかと思うばかりだ。

「カメがこうなったら捨てるんだよ」
と、ピンクルに言った。
「どこに捨てたらいいの?」
「ゴミ置場」
「不燃物?」
「燃えるだろう」
 でも、不法投棄でいじめられたらいけないから、せめてちゃんとカボチャやブロッコリーを食べようとか思う。また「アホ」と泣かれたくないから。


荻原浩「明日の記憶」

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