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井上敏樹「仮面ライダーファイズ正伝―異形の花々」

平成仮面ライダーに一番深く関わった男、井上敏樹が熱きファイズファンに贈る、「小説・仮面ライダーファイズ」堂々完成! 巧・雅人・啓太郎・結花・勇治・直也たちは今? そして、真理の生い立ちがついに明かされる…。

 文章は、、、これは、何しろ本業の小説家ではなく、箱書きが仕事であるところの脚本家なのだから、粗々なのは仕方がないのである。カイザ=草加雅人の最期のシーンなど、ここで「胸をなでおろした」はないだろう、と苦笑してしまうのだが、それでも。
 それでも。これは、せつなく、つらく、怖い話だった。そして、テレビ本編での失速と未回収が残念だったこの物語の、まるで「真実の形」のように綴られたこの「外伝」は、映画版と並んで、不完全で未完成でありながら、やはりファイズ、、、巧、、、のことを忘れられなくさせるだけのエナジーを持っていた。

 スマートブレイン、ラッキークローバー、デルタ、そういった諸々を切り捨てて、「父さん」も「オルフェノクの王」も捨て、ただ木村沙耶のみがああいう形でクローズアップしてきたのはどういうことか。そして雅人のこの最後の形の悲しさと怖さ。。。

 海堂直也については、彼の陽の部分のみが拡大され、陰の部分が影を潜めているが、そもそもこれが海堂の本質なのだろう。語られる「夢のかけら」のパーツのみ、テレビシリーズでの想いを残している。このめげない快活さは、読んでいてどこか京極夏彦の榎木津礼次郎を思わせた。そうしたパワフルさがあればこそ、暗くせつなく怖いこの「外伝」の中で、エピローグの一点、映画版で最後に巧と真理が見せたような「未来への道」を差し出す役割を担えたのだろう。

 長田結花は、テレビ、映画と比べても、最もこの「外伝」版でこそ、その存在感と存在意義が熱を持っていた。テレビ版では入れ替わり立ち替わり現れざるを得ない多くのキャラクターの中で埋没し、いつしか意義を薄れさせながら唐突に死を迎え、それは無理矢理木場を翻転させる意味しか持たなかったが、この外伝版では、結花の持つダークサイドがあからさまに、はっきりと、啓太郎との関わりの中で映し込まれ、そのまま、その終局へ、そして未来へのエピローグとして生きている。

 当然、この結花の役割と意義は、そのまま啓太郎の役割と意義も厚いものとし、同じくテレビ版で埋没してしまった啓太郎のレゾン・デートルも復活させていた。どれだけのものをテレビ版が内包しながら未消化に終わってしまったか、そう思うとこの外伝はテレビ版にとって諸刃の剣のような部分も持つわけだが、かといってこの外伝版をそのままテレビシリーズで実施することももちろん不可能だっただろう。

 そして、真理と巧は、、、

 巧がいつ、異形のものになっていたのか。。。それが、唯一この外伝版で記される。この、真理との運命のような繋がりは、作り事過ぎると言えばそれまでだが、物語のベクトルとしては最重要だ。「流星塾」のバックボーンを潔く捨て去ったことで、逆にこの強靱な物語の核が生まれているのだとすれば、こちらをこそ選択したのはこの外伝の「正しさ」だと思う。
 「物語」としてベクトルが一筋、貫かれているのだ。

 だから、、、
 そして、決して、テレビ版も捨て去る必要はない。

 映画のラスト、「おまえの夢は、俺が受け継ぐ!」として「俺の歩く道」を進み続けようとする巧、テレビのラスト、啓太郎のように「真っ白な洗濯物」を「俺にも夢ができた」と微笑んで語る巧、そしてこの外伝版の。。。それら全てを、ファイズの、巧という人間の、「物語の全て」として、全部受け取ってしまえばいいのだ。

 こうして、受け手の中の「ファイズ」は完成する。。。
 これは、女々しい、弱々しい人間が、そのひ弱さのまま、けれども運命と闘った物語なのだ――。

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