平井和正「狼のレクイエム第1部・第2部」

第1部
「自由とは戦い取るもので、座して与えられるものじゃない…。戦い取った自由にだけ価値があるということだ」。―狼人間の不死の血清を狙う“不死鳥グループ”に捕われた青鹿晶子は、犬神明によって救出されたものの、強力な麻薬で意志を失った廃人となってしまった。さらにあろうことか、監禁中に凌辱された彼女は妊娠し、その中毒症との合併症で死に瀕していた。「ナルコティック800」の解毒剤は存在するのか。犬神明は愛する者のために、人類の「狂気」とたちむかうことを決意する…。混迷奔騰のシリーズ第3作。


第2部
狼人間犬神明少年と、虎部隊の愛すべき危険な少女虎4は、核シェルターにも等しいCIA極東支局の建物への潜入に成功していた。侵入者をことごとく粉砕する殺人装置がひしめく保安システムをかいくぐり、支局長ハンターを追いつめる2人…。“不死鳥作戦”P計画とは有色人種殱滅計画であった。人類の「狂気」の犠牲者、青鹿晶子の命運は。そして破壊したはずの保安システムが予備装置により復活し、2人は退路を断たれてしまう…。シリーズ最高潮、怒涛のクライマックスが迫りくる。犬神明、吠える。


「狼の紋章」「狼の怨歌」に続くウルフガイ・シリーズの第3作目は「狼のレクイエム」。
これは、分厚かった「狼の怨歌」よりもさらに大長編となったために、「第1部・第2部」として2分冊で刊行された。紛れもない前後編であり、それぞれは独立しているとは言えない。

「狼の紋章」「怨歌」がそうだったように、この「狼のレクイエム」でも取り返しのつかない「死」が登場人物たちに降りかかってくる。ここまでの特徴としては、「死と再生」「不死」がテーマであることを象徴するように、
 「狼の紋章」で死した少年犬神明が「狼の怨歌」で復活し、
 「狼の怨歌」で死した西城恵が「狼のレクイエム」で復活した。
これを「おんなじやん!」というのは、だから違うのだ。彼らは非情な闘争の中に生きることを強いられ……そして死によって逃れることも許されない。ここで描かれる「不死」は全く福音などではないのだ。

そして、この「狼のレクイエム」でもまた……

この「狼のレクイエム」はタイトルに相応しく悲壮な死が相次ぐ。これは登場人物たちに感情移入し、愛した読者たちにとってはつらく、耐えがたいことであり、かなり過激な或いは哀切な手紙が作者の元には届いたようだ。
しかし、作者は安易なハッピーエンドは物語の死であるとして退ける。少年犬神明の復活も西城恵の復活もハッピーエンドのためのものではない。

そして、ここで作者はものすごいことをする。これは前代未聞であり、こんな物凄いことをやった作家を現在に至るまで他に知らない。これについては、「狼の世界(ウルフランド)」についてで書きたいと思う。

とまれ……「狼のレクイエム」はハッピーエンディングを迎えることはなく、「第3部」の執筆が予告された。新しい「狼の○○」ではなく、あくまで「狼のレクイエム」の第3部であることにどんな意図があったものか。
しかし、その予告が果たされるのは、途方もない時間が過ぎてからのことであり、当初の腹案が捨て去られてのことだったのだ。

「狼のレクイエム第3部」は「黄金の少女」の副題で数巻に分冊され、刊行元によっては第1巻のみを「黄金の少女」とし、2巻目以降には別の副題が付けられて刊行もされた。それと前後して、この「狼のレクイエム」第1部・第2部にも副題が付けられるようになった。しかし、これはさほど意味のある副題とは思われない。その証拠に、あとでいきなり変わったりした(笑)。

第2部については、「ブーステッドマン」という副題が与えられ、これは固定されていたが、第1部は「虎の里」「虎精の里」と変動がある。第3部以降に副題があるので、とりあえず揃えてみました程度の意味だろう。

第3部以降はシリーズとしてはかなり様変わりしているため、この「狼のレクイエム」第1部・第2部までのみを評価する読者も多い。第3部も独立した小説として読めば面白いにちがいないのだが、ウルフガイ・シリーズとして読むのは難しいかもしれない……が、これについては「黄金の少女」についてで書けるときがあるかもしれない。

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平井和正「狼の怨歌」

苦悶でねじまがった顔が恐ろしい変貌をはじめた。口がねじれながら裂け、ふとい犬歯がみるまに伸びる。金色の獣毛が微速度撮影さながらに密生してきて、全身を覆っていく、―獣人現象だ。致死量の5倍にも相当する青酸カリが少年の腕に注射されたのだ。羽黒獰との闘いに斃れたはずの犬神明が生きていた。そして、ウルフガイの不死の秘密を手にしようとする不死鳥作戦が不気味な影をあらわしはじめる…。ドランケの魔手に落ちた青鹿晶子を救うため、犬神明、神明、虎4が凄絶な闘いを繰り広げるシリーズ第2作。

復刻版で出版されていた坂口尚作画の「ウルフガイ」ではカットされてしまっていたが、この最初のコミカライズでちゃんと「狼の怨歌」まではマンガ化されていた。この坂口尚版で何が不評かといえば、これはもう神明の造形だろう。虎4(フースー)についても、そもそも青鹿晶子についても、モンキー・パンチみたいな絵柄で描かれた女性陣には今となっては絶句ものなのだが、なんといっても神明が困る。

「狼の紋章」版ではまだ脇役脇役していたから許すとして、「狼の怨歌」では、少年犬神明が意識不明なものだから、西城恵や虎4相手にすったもんだ繰り広げるのは神明なのだ。主役でないが故に、グレンダイザー時の甲児くんよろしく三枚目で終わってしまうのだから、せめて造形くらい何とかしてくれないかと願いたくもなろうものである。
(だからこそ、今回の連載版で「悪漢ウルフ!」と登場したときの格好良さは感涙ものなのだが)

そう、この神明という犬神明と紛らわしい名前の持ち主は、ブルSSSを駆り、フリーのルポライターで、狼男なのだ。まぎれもない、「狼男だよ」のアダルト犬神明のパラレル存在なのである。
石崎郷子の存在は定かではないが、どうやら少年犬神明の存在が彼を「人狼地獄編」たる戦線を回避させることになったらしい。その代わりに、不死鳥作戦という後に神話人種と絡んでいく別の戦線に引き込んでいくわけなのだが。

しかし、この「狼の怨歌」では神明の活躍よりも、殺し屋西城恵と中国情報部虎部隊の虎4の登場が重要になる。彼らの存在は、神明より、林石隆より、ここでは大事なのだ。

西城恵の血みどろのラストシーンが、ここではとても哀しく、美しい。そしてそれがそのまま、「狼のレクイエム」の西城主役パートと繋がっていくのだ。
平井和正の主人公達は、誰もがぎりぎりいっぱい生きている。

平井和正「狼の紋章」

私立中学博徳学園の美人教師、青鹿晶子は、ある夜、1人の少年が3人の不良高校生にナイフで刺されるのを目撃した。よく光る目、獣のように上端がぴんととがった耳、ほっそりと痩せぎすの体躯から一種独特の精気を発散するその少年に、彼女は意外な場所で再会した。少年は転校生として彼女のクラスにやってきたのだ。彼の名は犬神明。危機に直面する女教師を救う大自然の精霊、不死身のウルフガイ! 数多くの読者の絶大な支持をうけつづける名作シリーズ。

「ヤングチャンピオン」に再び『ウルフガイ』のタイトルで新たにコミカライズ連載中の、この「狼の紋章」は、「ウルフガイ・シリーズ」として世に知られている。「アダルト・ウルフガイ・シリーズ」とは人気を2分しているわけだが、どうやらこの2つのシリーズの主人公を「同一人物」だと思っている読者がいるらしいと知って、少しビックリした。

確かに、同姓同名、同属性(狼男)なのだから、そう思うのが当然か。しかし、この2人については同一人物ではあり得ないのはもちろん(生きている時代が同じなのに年齢が異なっている)、パラレルワールドで「時代のみがずれての同一存在」というものでもないようだ。この辺のことははっきりさせておいた方がいいだろう。

犬神明と名乗るキャラクターは、現在までのところ最低3人が存在している。
「狼男だよ」を皮切りとしたアダルト・ウルフガイ・シリーズの主人公、アダルト犬神明。
中編「悪徳学園」に登場した主人公、少年犬神明。
「狼の紋章」を皮切りとしたウルフガイ・シリーズの主人公、少年犬神明。

※「月光魔術團」の犬神明は「犬神メイ」として別キャラクターになる。
※「あいつと私」「あとがき小説 ビューティフル・ドリーマー」に登場した青年犬神明は、「悪徳学園」の犬神明であるらしい。

「悪徳学園」の犬神明とアダルト犬神明は相似形だ。この2人なら、時代のずれたパラレルな存在として考えることも不可能ではないだろう。片や壮絶な暴力世界の戦いに突入し、片や“妖精”のようにパロディ世界に在り続けると役目は異なっており、その結果キャラクター的にかなり違っていったのだが、少なくとも「悪徳学園」の犬神明は「狼男だよ」の犬神明の少年時代と言われても違和感のないキャラクターだった。

もともとは「狼の紋章」の犬神明もそう描かれていたようだ。少なくとも原作小説で一人称で書かれている間の犬神明は間違いなくそんな感じだ。

「狼の紋章」は、「狼男だよ」から派生した「悪徳学園」をベースにして、連載少年マンガ「ウルフガイ」の原作として書かれていた(この時の作画は坂口尚)。しかし、原作はシナリオ形式ではなく、小説として書かれている。マンガ家としてはかなりやりにくかっただろう。のちに、石森章太郎が「新幻魔大戦」を描いたとき、やはり原作が小説として書かれていたためにどうしてもコミックとして消化できず、次第に「時々マンガになる絵物語小説」と化してしまった。台詞とト書きで出来ているような書き割り小説ならともかく、キャラクターの内面が濃厚に描かれた小説は、コミック手法で描ききるのは困難極まりない。コミックでキャラクターの内面を綿々と書こうとすると字ばかりが何頁もズラズラ続いてしまいかねない。

特に、「ウルフガイ」の原作小説は、なんと犬神明の一人称で書かれていたのだ。「狼男だよ」も「悪徳学園」も犬神明の一人称なのだから当然と言えば当然かも知れないが、後に完成され刊行された小説版「狼の紋章」「狼の怨歌」は三人称なのだ。
三人称で描かれる少年犬神明はクールで皮肉な少年という趣が強く、「狼男だよ」「悪徳学園」での犬神明が一人称でぼやいたり愚痴ったりダジャレを飛ばしたりというキャラクターであるのと比べると性格がまるで違って感じられる。
もっとも、「狼の紋章」の犬神明も、登場当初のセリフを追っていくと、案外「悪徳学園」の犬神明と喋っていることは変わらないのだ。これって、もしかして一人称で書いていたら、そんなに性格かわんないんじゃないのか?と思って個人的に一人称バージョンを作ってみたりもしたものだ。Sa-Qどんなどは「そうかなー、あんまりピンと来ない」と思っていたらしい節もあるが、いざ「原作小説」が発掘されてみると「おお、なるほど」と思ってくれたようだ。少なくとも、コミカライズ連載当初の少年犬神明は、やはり同一キャラクター存在だったのだ。

それが、原作小説も途中から三人称に変わっていく。まあ、一人称でコミックを作るというのはいろいろ難しいにちがいない。主人公の目で見たものしか画面に描けないわけだから、制約が多すぎる。
そして、三人称で青鹿晶子たち第三者から見た犬神明が描かれるようになり、その結果、次第に犬神明のキャラクターはお調子者の部分が消滅していく。「狼男だよ」「悪徳学園」の犬神明とは乖離していったのだ。

今新たな作画メンバーで新生しているコミック「ウルフガイ」連載当初から、「これは『狼の紋章』の犬神明じゃなくて、『悪徳学園』のじゃないのか?」とさんざん書いてきたのは、そういう違いが如実にあるからなのだ。内面でのぼやきがグダグダ出てくる犬神明は、「狼男だよ」「悪徳学園」の犬神明の属性であり、「狼の紋章」の犬神明はストイックになっているのだ。そして、このクール、ストイック、皮肉っぽいジョークという面が、他の2人の犬神明とは違う魅力をもって読者を夢中にさせたようなのだ。

この「狼の紋章」の魅力は確かに、クールでストイックと評される少年犬神明の内面の懊悩、押し潰してきた感情が爆発する瞬間……に在るに違いない。「悪徳学園」の犬神明が見せずじまいになった感情の爆発、「狼男だよ」の犬神明が続く作品群でようやく次第に見せ始めたそれが、「狼の紋章」ではこの最初の巻から噴出している。アダルト犬神明の魅力を知ってもらうのに第1巻「狼男だよ」では足りないのかなと思ってしまうが、少年犬神明については逆であり、第1巻「狼の紋章」こそが少年ウルフ最大の臨界点なのだ。

続く「狼の怨歌」「狼のレクイエム」では、少年犬神明はむしろ物語のコアとしてのみ存在し、周囲のキャラクターたちの感情が物語を動かしていく。だから、いざ彼が物語の中心に戻ろうとした最終シリーズ「犬神明」がもどかしい作品になっていたのは当然なのかもしれない。しかし、それについてはまたのちのことにしてしまおう。

ウルフガイその9

※これ以前の記事は、Seesaa版万華鏡日記に存在しています。


かなり原作ストーリーに添った形になってきたのかなと思いながら待ち受けた……神明登場!

いや、実は神明の登場はないんじゃないかとも思ったりしていた。
というのは、この「ウルフガイ」の少年犬神明は表面上「狼の紋章」の少年より「悪徳学園」の彼に見えているわけで、ということは即ちアダルト犬神明により近いキャラクターなわけだから、アダルト犬神明のパターンを持つ神明と一緒に存在はできないんじゃないかと思ったりしたわけなのだ。

しかし、神明登場。

そして……

――悪漢ウルフ!

いやいやいやいや、かっこよかったですよ、この神明。
正直、これまで各種状況下でマンガ化されたアダルト犬神明を見てきたわけですが、高橋留美子先生の神明も含めて、「かっこいい!」と単純に感じたのは今回のものが初めてでしたよ。

――悪漢ウルフ!という登場もすばらしい、というところで、原作の神明よりさらにアダルト犬神明のイメージを踏襲しているんじゃないかしら。

なかなか感想の定まらない今バージョンの「ウルフガイ」でしたが、この神明の登場で、一気に個人的な評価は急上昇いたしました(笑)。もしかしたら、コミックスを買ってしまうかもしれない(笑)。

(おっぺ)

 

ウルフガイその8

クロ(型キャラクター)復活!(笑)……という、前回の木村紀子登場に呼応させたらしき布陣は、どうやら「悪徳学園」から正統「狼の紋章」へのシフトチェンジの目論見か?
青鹿晶子のキャラクターをどう変容させて行くのかが楽しみになってくるのかもしれない?

 

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