暗闇仕留人最終話「別れにて候」

「暗闇仕留人」については、
 http://oppincle.blog52.fc2.com/blog-entry-312.html
で、最終話を通じて総括的に触れたのみで、各話感想は書いていなかった。
「仕留人」については、やはり最終話の衝撃が大きく、各話感想より何より「暗闇仕留人について」ということで書きたくなってしまったからかもしれない。

とりあえず、最終話だけに絞って、今一度書いてみる。今後、「過去ありて候」など、各話について書くこともあるかもしれないが……


     ☆

「俺たちのやって来たことで、世の中少しでもよくなったか?」

これは、
「正しいことなんねえ、きれいなことなんかこの世の中にはねえと思いながら、心のどこかでそれを信じて十手を握ってきたんだ」と鉄に対して愚痴った主水が「俺たちゃ悪よ、悪で無頼よ」と「悪であることを正義の遂行の手段とする」仕置人の道を見出し、それにのめりこんで、鉄たちと別れた後もその蜜月時代を忘れられずに貢たちをスカウトしてまで仕留人を始めた・・・それに対して一番言ってほしくなかった、考えたくなかった、ことなんじゃないかという気もしました。
「俺たちにやられた奴にだって、家族や好きな奴がいたかもしれん」
そんなこと言いだされたら、主水の拠って立つ場所がなくなってしまう。
「俺たちゃ悪よ、悪で無頼よ」
正義の味方なんかじゃないんだから、世の中がよくなろうがなるまいが、やった奴に家族がいようが好きな奴がいようが関係ない・・・はずなのに。
でも、貢は突きつけてしまう。
主水は、それを認めるわけにはいかないのです。認めたら、自分が「仕置人」として、そしてわざわざ自ら仲間を募って「仕留人」としてやって来たことが虚しくなってしまうかもしれない。
だから、貢の言い分を拒絶する。間違っているのはおまえだ、と。
「カスにはカスなりに生き方がある」
けれどその言い方には、「俺たちにしかできねえ仕事なんだ」と仕置人を始めたときに言った言葉と同じに、「悪だが、カスだが、役に立つことをしているんだ」という自分への正当化があったのではないか? それを支えにして、主水は自分の「正義」を「心のどこかでそれを信じて」きた・・・

その結果……

「俺が殺してしまった!」と石屋が口走りますが、おそらく、それは主水も同じ慟哭を心に叫んでいたに違いなく。
自分がスカウトし、自分が躊躇いを許さず、その結果。

そして、そんな主水に、貢は「・・・すまなかったな」と笑ってしまう・・・

この瞬間、主水は貢の言い分に敗北するしかなくなってしまった。
「もう頃合いだ。糸井がそれを、教えてくれたんだ」・・・と。

たぶん、これは念仏の鉄は「仕置人」解散時にすでに知っていた感情だったんだと思うんですよ。「仕置人」終盤、「無関心もほめられたもんじゃねえな」などと言いだし、最終話で「銭金抜きでいいことをするっていうのもまんざらじゃねえな」などと思ってしまうや否や、しっぺ返しのようにチーム崩壊の危機を迎えたことから、鉄はたぶん「人情のためとか、悪い野郎を裁くとか、そんな安物の絵草紙に出てくるようなこと」で殺しをすることが決して「世の中を少しでもよくする」わけでもないし、悦に入れるようなものではないと分かっていたのだと思うのです。
だからこそ、トリックを使ってまで、主水たちと別れた。「いつまでも続けるようなありがたい商売でもないだろう」、と。

主水は、全然認識していなかった。だから、平気で「また始めたい」と思って仕留人を始めちゃうことが出来た。鉄に比べて、主水は本当に甘甘なんです。そこが個人的には決して嫌いではないのですが・・・

貢の死という結果を突きつけられて、ようやく主水は自分の思い上がりに気付く。明るく楽しい仕置人、仕留人、「おれたちゃ悪よ」を標榜して、けれど「心のどこかでおのれの正義を信じて」いたのが中村主水。「世の中少しでもよくなったか?」だって、別に正義の味方じゃないんだから・・・「奉行所が目こぼしするとなりゃあ、そいつを俺たちがやらなきゃならねえ」「俺たちでなけりゃあできない仕事なんだ」「そろそろ始めなきゃならないと思ってた」そんな使命感めいた言い方をしてきたのは常に中村主水。「心のどこかで信じて、十手を握ってきたんだ……」。

貢の言葉に、貢の死に、主水の拠って立つ基盤は崩壊し、仕留人は解散した。
ここで日本の夜明けが来れば、開国、維新となって、二度と仕置人が結成されることもなかったのでしょうが、
「わしを殺せば、日本の夜明けが遅れるぞ!」
というわけで、日本の夜明けは遅れまくってしまい、黒船もいつしか帰ってしまったようで、そののち何十年も延々と江戸時代は続いていくことになったわけですが・・・

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暗闇仕留人

「必殺仕置人」終了後、「助け人走る」を挟んで出現した中村主水登場の第2弾。

尤も、実は中村主水という男は「助け人走る」にもしっかり出演していた。1回こっきりのゲストではあったが、第12話「同心大疑惑」に助け人の正体を見抜いて追及する役回りで登場した。
主役の助け人文十郎と驚愕の殺陣を繰り広げ、元締め清兵衛とも対決する。「……俺も一口乗せろ」。
このゲスト回では仕置自体をすることはなかったが、圧倒的な存在感で助け人各人と対峙して物語を盛り上げていた。
満を持してという感じで新シリーズに再登場したのも、むべなるかな。

この「暗闇仕留人」で、前作「必殺仕置人」の念仏の鉄、棺桶の錠に変わって登場したのは、蘭学者の糸井貢と「村雨の大吉」の通り名を持つ石屋の大吉。型破りな仕置技を持つのは、念仏の鉄に続いてレントゲン殺しの心臓潰しを見せる大吉だが、仕留人全体を通じての主人公役となっているのは糸井貢の方だった。石坂浩二が演じた糸井貢は、黒船来航という事態の中で開国を希求しながら病身の妻を護るために主水のスカウトを受けて仕留人となる。理想化である彼の中にあるのは、時代劇のヒーローのような正義感だ。偽悪的な言葉を吐きこそすれ、自分の行為が「悪を裁く正義の仕事人」のようなものと心のどこかで信じたかったはずだ。

シリーズを俯瞰しての構成とはなってはいないが、要所要所で現れてくるのは、「正義の味方・仕事人」になれなかった「暗闇」、仕留人の悲劇だ。

大吉は元々盗賊の一味であり、「悪い奴らをぶっ殺して金が貰えるなんて、いい商売だ」としか仕留人という存在を捉えてはいない。念仏の鉄が持っていたある種の拘りさえ、大吉にはあり得ない。
主水はといえば、仕置人時代の鉄・錠らと組んでの痛快な日々を再現する意図で仕留人チームをスタートさせたらしい節がある。貢・大吉以外のメンバーは、仕置人で一緒にいた半次・おきんが復帰しているのだから、主水にとっては本当に「新必殺仕置人」のつもりでの仕留人チームだったはずだ。

しかし、2クールめに入っての第17話で、仕留人の競合他社「仕上げ屋」が登場し、貢を仕留人と知った仕上げ屋の手で、彼の愛妻・あやは無残な死を遂げる。仕置人時代は結局チームや関係者の1人として命を落とすことはなかったのだから、これはそれまで痛快に仕置・仕留をやってきた中村主水にとっても衝撃的な出来事だったはずだ。
実際には、少し前、第15話でも、半次が見つけてきてちょっとした手先のように使っていた第1話以来のおみつという娘が大吉を狙う悪党側の手にかかって死んでいる。おみつの立ち位置は、仕置人時代のおしまの位置だっただろうから、これが主水関係者の最初の死ということにはなるはずだ。とはいえ、仕留人皆が彼女の死に悲しみはおぼえても、まだ衝撃とまでは至っていなかったには違いない。
糸井あやの死は、おみつの死とは次元の違う出来事だったのだ……

前作、「助け人走る」では開幕当初の痛快さとは裏腹に、シリーズ半ばにして助け人チームから殉死者が出ている。同時に、いったん助け人グループは解散し、司直から疑惑を持たれた状態で綱渡り的に仕事を続ける状態にまでなっている。そして、最終回では、宮内洋演じる島帰りの龍は生死不明となった。仕掛人・仕留人までの、ある種無敵の時代劇ヒーローという部分が転換してしまっていたのだ。

その「助け人」での転換が、そのままのように持ち越され、「新仕置人」だったはずの仕留人にも影を落としていた。

愛妻のために始めたはずの仕留人という仕事のために、その妻を失うことになってしまった糸井貢。以降の彼は、一見正義の味方風の理想主義を失い、「本物の仕留人になりやがった」と主水に言わしめる殺し屋として再出発する。
しかし、そんなものは表面に纏った猫一枚でしかなかった。
迎えた最終回、仕留めるべき相手は幕府の重鎮であり、「開国派」の旗頭だった。貢にとっては決して殺せる相手ではなかった。彼を殺せば、求め続けていた開国は遠のく、或いは消失する……

ここに至って、貢は崩壊する。
「人間の一面だけを見て責めるのは間違っているとは思わないか!? それは確かに彼には許し難い部分があるだろう、だが見識は見事なものだ、日本の未来には彼は絶対に必要なんだ!」
どんなに被害者・犠牲者が出ても、そう言い募って仕留人として行動に出ることがない。
それどころか、ついには仕留人のアイデンティティーを主水に突きつけ、もともと「悪の上を行く悪」として仕留人チームに入った主水をぐらつかせる。
「俺たちのやってきたことで、世の中少しでもよくなったか!? 俺たちに殺された奴にだって、家族や好きな奴がいたかもしれん!」
主水には――この貢の言葉に頷くわけにはいかない理由がある。頷けば、仕置人時代以来、自分のやってきた全てが否定されるからだ。
正しいことなんかない、きれいなことなんか、この世の中にはない……そう思いながら、心のどこかでそれを信じて、十手を握ってきたんだ……。仕置人を始めることを決意する直前、念仏の鉄にそう本心を吐露していた主水。
仕置人なんて汚い仕事だ……向こうが悪なら、こっちはその上を行く悪にならなきゃならない……俺たちは悪よ、悪で無頼よ……
俺たちみたいなロクデナシにしかできない仕事なんだ……
自嘲的に言いながら、その実、どこかしらプライドと満足感をおぼえながら……
その主水の仕置人としての、ひょっとしたら中村主水という人間そのものとしての存在意義をすら、貢は仕留めてしまったのかもしれない。

これを最後にしてくれ……ついに主水や大吉の執拗な攻勢に妥協して、貢は仕留めに赴く。開国派の重鎮……。だが、貢の刃が閃く寸前、この重鎮は叫ぶのだ。
……わしを殺せば、日本の夜明けが遅れるぞ!
……日本の夜明けが、遅れるぞ……!
貢の動きが止まり、慄え――
「馬鹿者めが!」
逆に叩き斬られ、倒れ伏す。
愕然と見守る主水や大吉の目の前で……。

仕留人・糸井貢は死んでいった。
仲間達に囲まれ、悲しげな、寂しげな眼で、仲間達を見やりながら……
最後に一言遺した言葉は――「すまなかったな……」。

なにに対して、誰に対して、貢はそう言っていたのか――。

仕留人の活動によって、日本の夜明けは遅れたのかもしれない。こののち、主水は黒船など存在しないかのような仕置屋時代に突入し、その後何年も何年も何年も開国されることのない江戸世界で正義の味方・仕事人を続けることにもなったのだから。

中村主水という男の人生を大きく変えたのは、仕留人糸井貢だったに違いない。もし、仕留人が貢を欠き、大吉+どこかの誰か、というメンバーだったなら、或いは主水はこの後もずっと幸せで痛快な仕置人でいられたのかもしれない。

「暗闇仕留人」という物語は、こうした大きな物語だった。エンターテイメントとしては今ひとつ地味であり、仕置人の痛快さや仕置屋の悲哀など、他の主水シリーズと比しても一枚足りない感じは否めないが、それでも確実に重要な物語だった。

タイトルに「必殺」を冠しない唯一の主水シリーズでもある。この「暗闇」は、最後の最後に主水に突きつけられた抜け出せない闇だったのかもしれない。

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