島田荘司「犬坊里美の冒険」

雪舟祭のさなか、衆人環視の総社神道宮の境内に、忽然と現れて消えた一体の腐乱死体! 残された髪の毛から死体の身元が特定され、容疑者として、ひとりのホームレスが逮捕・起訴された――。しかし、死体は、どこに消えたのか? そして、被告人の頑なな態度は、なぜなのか? 司法修習生として、倉敷の弁護士事務所で研修を始めた犬坊里美は、志願して、その事件を担当した! 里美の恋と涙を描く青春小説として、津山、倉敷、総社を舞台にした旅情ミステリーとして、そして仰天のトリックが炸裂する島田「本格」の神髄として、おもしろさ満載の司法ミステリー、ここに登場。

 里美が主役だし、タイトルもこれだから、とりあえず過大な期待(御手洗物の新作を読むときのような)はしないで読み始めた。
 里美というキャラクターには毀誉褒貶あるようだが、これまでの作品の中で正直言ってあまり印象強く読んで来ていなかった。つまり、特に好きでもないし、嫌いでもない。
 しかし、この作品の里美を読んで、かなり印象は上昇した……文字通り、上向きに。

 正義感とか、そういう面だけのことより、殺されそうになって「もうしませんから許して」「なんでもするから殺さないで」と泣きながら懇願してしまう、当たり前さが――そして、それなのに「見逃せ」と言われて「できない」と返してしまう……このかたくなさ。
 自分を無力だと思い、諦め、嘆き……けれど、抵抗せずにはいられない。
 死にたくない、なんでもするから殺さないで、もうしませんから許して下さい、と自分の突き止めた犯人にひいひい泣きながら懇願する主人公がどこにいただろう。しかも、それでもなお、やはり……
 島田荘司ならでは、のものではないのかと思う。

 ミステリの形としては、読んでいて不思議と高木彬光を思い出したが、直接連想を誘うものはなかったはずだ。
 「食べた」には呆然だが、なるほど伏線だけは張ってあった。バカミスには違いないし、必然性が胸落ちしないが、まあいいや(笑)。
 里美はどうやら本当に石岡のことを異性として好きらしい。今後どうなるかは、全くわからないのだが。

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島田荘司「ある騎士の物語」(「御手洗潔のダンス」所収)

 ドン・デラマンチャの話。。。
 「異邦の騎士」もそうだったけれど、こういう話にはとても弱い。。。
 「ヒロイン」に真実を知ってほしい。。。という気持ちで読んでいたけれど、御手洗の告げる確率は酷薄。。。

 ドン・デラマンチャの歌は、私には石森章太郎「宇宙からのメッセージ」で書かれた形が1番。。。


 かなわぬ夢を夢見る
 太刀打ちできぬ敵と戦い
 耐えられぬ悲しみに耐え
 勇者さえも避ける地を走り
 正せぬ悪を正し

 そう 私は星を探して旅立つ
 たとえ その星が かそけくはかない夢であったとしても
 もう ためらうことも 恐れることもない
 さだめのままに 地の果てまでも突き進む

 そうすれば 世界も変えられる
 そうすれば 笑われ 傷ついても  勇気の最後のひらひらまで戦える。。。!

 かなわぬ夢を 夢見ていれば。。。。。。

島田荘司「水晶のピラミッド」

エジプト・ギザの大ピラミッドを原寸大で再現したピラミッドで起こる怪事。冥府の使者アヌビスが5000年の時空を超えて突然蘇り 、空中30メートルの密室で男が溺死を遂げる。アメリカのビッチ・ポイントに出現した現代のピラミッドの謎に挑む名探偵・御手洗潔。壮大なテーマに挑んだ本格推理の名作。

 面白かったと思うのだけど、メインの、殺人事件とか密室の謎とかの印象は薄くて(笑)、むしろ、そこまでのピラミッドについての薀蓄とか、御手洗と石岡の会話とかが面白かったような(笑)。
「ダブルミーニングはいけないな」みたいな、御手洗のセリフが頭に残っているのでした。

ん? ちがった。ダブルスタンダードだ(笑)。
ダブルミーニングは、ミステリにとっていいことである(笑)。

水晶のピラミッド

島田荘司「確率2/2の死」

プロ野球のスター・プレーヤーの子供が誘拐された。身代金一千万円。警視庁捜査一課の吉敷竹史刑事は、姿を見せぬ誘拐犯の指示で赤電話から赤電話へ、転々と走り回る。が、六度目の電話を最後に、犯人は突然、身代金の受け取りを放棄し、子供を解放した。果たして犯人の目的は何か。鬼才が野心的着想で挑んだ長編推理小説。

 軽い感じの吉敷もの。
 ふと思うのは、「ら抜き言葉殺人事件」だの、吉敷ものは後になればなるほど「内容が薄手だ」という感じになってしまったのだけれど、割りと面白く読めるこの「確率2/2の死」、最初から文庫で出て、それだから、「ああ、少し軽めに仕上がっているのかな」という感じで読めたのであって、もしもカッパノベルスでのお目見えだったら、「薄い。。。」と否定的に感じたかも知れない。
 逆に言えば、「ら抜き言葉。。。」のようなのも、文庫版でのお目見えシリーズだったら、案外面白く仕上げているなあ。。。と思ったのかも。

 再読して、心に残ったのは。。。
 夫との気持ちに齟齬が生じて、妻が放心しているときの。。。

 「ベランダに椅子を出し、まるで花火見物でもするように、腰を降ろした。去年の夏、夫と両国へ花火見物にいったときのことを思い出した。あの頃はよかったと思った。お金はなかったが、いまに較べれば、どんなに幸せだったことだろう。」

 いま読むと、とてもせつない。。。

 もう1つ。磯田夫人の臨終のシーン。どんな惨い殺人、死のシーンよりも、胸が痛んだ。人はこんなに簡単に死んでしまうのだ。
 磯田夫人の死因には、「裏」とも思われるものはない方が、個人的にはよかった。
 御手洗はヒーローだが、吉敷もヒーローではある。よい夫でもなく、瑕瑾ばかりの人間には違いないが、やはり。。。

島田荘司「龍臥亭幻想」

雪に閉ざされた龍臥邸に、八年前のあの事件の関係者が、再び集まった。雪中から発見された行き倒れの死体と、衆人環視の神社から、神隠しのように消えた巫子の謎! 貝繁村に伝わる「森孝魔王」の伝説との不思議な符合は、何を意味するのか!
「この頭部、足部を森孝の具足中に葬れ」
血溜りに浮かぶ生首と切断された片足。そして、旧日本軍の研究所で行われていた肉体縫合の悪魔的な実験。百年の時空を超えて、伝説の魔王が甦る――。
ファン待望! 御手洗潔と吉敷竹史の推理が、いま初めてクロスする!


 山ほど「積ん読本」が揃ってきたのだけれど、やはりというかとりあえずというか、「龍臥亭幻想」から。
 なんだかんだ言いながら、島田荘司の新作となると食指が動く。これは折原一の新作のケースと似ている。特に、今作は御手洗潔と吉敷竹史の「競演」だというのだから(ただ「推理がクロスする」だけらしいけれど(笑))、ますます後回ししかねる類なわけだ。

 物語自体は、前作(というか関連する前作)の「龍臥亭事件」同様、あまり本格ミステリという感じではなく、けれど高木彬光風の推理小説だ。それでも、帯の著者の言葉にあるように、少し「異邦の騎士」がらみのところがあって、そこのところは気を引かれる。

 閑話だが、カバーと思っていたのが「ほとんど帯」!で、帯を取ったらまるでカバーを取ったかのようなカバー(笑)で、しかも本当にカバーを取ったら、そこには全くカバーと同じ、カバーを取ったかのようなカバーを取った部分が出てくる(爆)という、このほうがよっぽどミステリの趣向だよという装丁はわざと?(笑) それだけ或る意味力を込めた本なのだろうけれど。寧ろ、この帯は帯と見るべきではなくて、「ダブルカバー」という豪華版なのだと見るのがいいのかも。
 字組みが少し大きく緩やかなので、細かい字がぎっしりという方が好みの私には、少しスカスカ感があって寂しいというのはあるけれど、無い物ねだりだろう。

 「競演」と言うほどではなくとも、やはり同じページ内で、「御手洗」と「吉敷」のふたつの名前が出てきているのを見ると心はいささか躍った。でも、一番感情が動いたのは、
 「女嫌いはやめたのか?」
 「何? それが一番訊きたいのか?」
 の部分で、笑い転げたんだけど(笑)。

 謎自体とその解決は、御手洗が電話で聞いただけで解いてしまうわけだから、もちろんここしばらくそうであるようにたいした謎ではない。吉敷が、石岡に告げられた御手洗のヒントを解読する、という予想された流れで、予定調和めいた集束だった。

 それにしても、御手洗が吉敷にとって「有名人」であるというのは解るが(噂になりうる人物について、「ああ、その男なら」と中村や牛越から実像を聞けるわけだから)、逆に石岡や里美にとって吉敷が「有名人」のようなのはちょっと不思議だった。警察官である吉敷が、どんなに怪事件を解決しても、御手洗のように個人的に著名になる道理はない。吉敷についての情報源はせいぜい通子くらいなのではないか。この点が本作の一番の謎に違いない。いつか、解かれるのか?(笑)


島田荘司「龍臥亭幻想」


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