舞夜じょんぬ「少女の時 ふるえる時間」

小学五年、秋。トイレに行きそびれて失敗した同級生を美里はかばったつもりでいた。自分の正しいと思ったことを貫くのが真実だと思っていたからだった。しかし、ボタンの掛け違いによりクラス担任、一部の女子から冷たい目を向けられていく。幼なじみの貴史、友だちの詩子もかばってくれるのだが、思わぬ方向に話は転がっていき……

ミステリとかSFとかのジャンル性を抜きにして、ただ真正面から「物語」を綴ろうとしたとき、作劇等のテクニカルな技倆を基にするか、それとも登場人物たちの感情を柱にして突き進むか、両立は難しくてどちらか片方を貫くしか術のない場合もある。
佐々木丸美の諸作を見た場合でも、「雪の断章」や「崖の館」等にはミステリ的要素があり、以降の作品群にも概ねSF(ファンタジー等と呼ばれるものも含んで)的要素がある。SF要素はともかくとして、物語を書けばそこには何かしらミステリ要素は出てくるのが寧ろ当然とも思うのだが、それを注意深く排除しようとするのも困難なものだ。
演出、テクニック、叙述の妙、ストーリー、そういったものの巧拙は取り沙汰しやすいが、それらから織り成された物語は再読したい感情に見舞われるかどうか、作者のテクニックや演出を確認するための再読はあり得るし、それはそれで面白いのだが、更に何度も何度も読み返したくなるのは常に……登場人物の感情を追体験したくなるときだろうと、個人的には思っている。最も人工的に作られるだろう小説である本格ミステリ小説であっても同じことだ。

ミステリでもSFでもない、ファンタジーでもホラーでもない、ただ真正面から日常生活を書いた小説の武器は、やはり登場人物の感情以外に何があるのだろうと思う。意外な展開、烈しいアクション(いや、それはアクション小説になるだろう)、恋愛感情。そう、恋愛や友情といったものはミステリでもSFでも物語の中心に据えられる「感情」だ。そして、ジャンルに依拠しない日常物語においても。

恋愛。友情。苦悩。そういった感情たち……それがどれだけ濃密に描かれているかが、日常を描いた「ただの物語」の何より貴重な主軸に違いないと断言したいのだ。

そして……しかし、たとえどれほど熱く濃密にそれが描かれていても、読み手に受け取りやすく、感傷や同感を得る類のものは、おそらく流行しやすくヒットもするのかもしれないが、個人的にはあまり高くは買えない。「日本中が感動した!」ヒット作品は多いかもしれないが、それは本当に感動なのか……わかりやすい共感を刺激するものであり、感傷をなぜるものだったのではないか。

感傷……を否定するのではない。私は必殺シリーズの中でも最も感傷的な必殺シリーズ、感傷の必殺と呼びたいくらいの「新必殺仕置人」を偏愛している。だから、ここで言っているのは小説に個人的に期待し求めるものということにはなる。

先日読んだ或る小説は、ライトノベル系統の「感動を呼ぶ」小説だったのだが、いっかな感動できなかった。登場人物たちの感情は熱い。愛があり、恋があり、夢があり、正義心からの行動がある。これらの思いが読み手の共感を呼び、優しく温かい気持ちにさせるのかもしれない。

だが、主人公の思いが最初から最後まで「全く間違っておらず、そのまま成長すればいい」ものだったことに、違和感を感じてしまった。周りとの軋轢があり、衝突があり、主人公はいろいろ考え感じるのだが、彼女の信念は常に正しいのだ。
主人公に感情移入する読み手としては気持ちよく読めるに違いない。共感し、彼女の行動に拍手し、前向きなエンディングに感動すればいいのであれば。

だが、彼女の思いや行動には、「相手の思い」についての考察はない。また、彼女の痛快な行動の結果が、どのような現実をもたらしたのかについては描かれない。

彼女にとっていやな人はいつまでもいやな人であり、いい人はいつまでもいい人であり、裏切られたときは相手がただ卑怯であり、彼女自身の責は問われることはない。

例え子ども向けの物語であったとしても……いや、寧ろ子ども向けの物語であったとすればなおさら、この浅薄さはうれしくない……

「窓のとおく」……
オレはいやなんだよ
グレアムが笑ってて…
それでオレが思い込んじまうのがさ

つまりさ……
オレは窓の中にいてさ……

知ってると……
窓のむこうの奴を知ってると……

奴は幸福そうに笑ってるのだろうと
思い込んで

笑顔があると思いこんで――

泣き顔かも知れないとは思わなくて


ひょっとしたら、違うのかもしれない……そんな気持ちを持って生きていくことがないなら、自分の思いだけで相手を断罪していいなら、それが痛快な正義の行動と言いきっていいなら、どんなに楽で、気持ちよく、そして残念なことだろう。

だから……私はその小説は肯定できなかった。

たぶん、その小説と比べれば圧倒的に浅薄なライトノベルと評価されるだろう「マリア様がみてる」の方が内省的で自照性が強い。読んでいて、驚かされることが多くあるのだ。

そう……個人的なことだが、私は驚きたいのだ。ミステリ小説のみのことではない。
驚かせてくれるほどの、登場人物たちの熱く、重く、真実な感情の動きを……悩みを、狼狽を、恥辱を、内省を、解放を、それを……

そして、今さらここでようやく名前を出してしまうのだが、舞夜さんの物語は唯一ネット小説の中で「読みたい」気持ちにしてくれる物語たちだ。そこには驚きがあるからだ。情熱と、感傷と、困惑と、発見が……

未完成な部分はいくらもあるに違いない。だが、完成された小説が素晴らしくて、未完成なもの、未熟なものがだめというわけでは必ずしもない。完成されたつまらないものもこの世の中には多いのだ。

「少女の時 ふるえる時間」の後半からクライマックスにいたる辺りでは、途中でPDAを閉じるのが勿体なかった(テキストファイルでPDAで読んでいる)。一気に読みたくなる気持ちにさせられた。平井和正の言うベクトル感覚というもので、読者を次のページ次のページへと疾走させる物語や主人公の感情に勢いがあるのだ。

私が基本的にネット小説を読まないのは、たいていのものが先述した「ひょっとしたら違うのかもしれない……」を持ち合わせない、そんな必要性すら考えたこともない、私から言わせれば「浅薄」な気持ち悪さだけが詰まっているものがほとんどだったからなのだが、市販される「ちゃんとしたプロの」小説でさえそんなものが堂々と出てきて、しかも「感動した!」で売られている現状の中では、もはや紙で出版された本もネット内での物語も、区分けする謂われはなくなったのかもしれない。

この作者の本なら読みたい……そんな作者を自分だけの指針で見つけ、読んでいく。結局はそれしかないのかもしれないと、この舞夜さんの作品を再読しながら考えたりしていたのだ……
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