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平井和正「人狼、暁に死す」

「狼男だよ」の直後に読むことになった「人狼、暁に死す」は、アダルト犬神明=脳天気でハチャハチャに明るい狼男、のイメージを一気に覆すことになった。

あとになってみれば、「狼よ、故郷を見よ」や、発表順からすれば或いは「人狼地獄編」を通過した後の犬神明なのだから、それは「狼男だよ」の脳天気さをそのまま保持し続けているのは無理というものだろう。だが、それまでシリーズ物の主人公といえば金太郎飴、という認識でいたものだから、ずいぶん違和感をおぼえたはずだ。

作品の成立事情も一役買っていて、これはずっと後になって知ったことなのだが、このエピソードはもともとはコミック「スパイダーマン」の原作として書かれていて、それをアダルト・ウルフガイに仕立て直しした作品だったのだ。
「スパイダーマン」は当然アメリカのあのスーパーヒーローなのだが、これを舞台を日本にした少年マンガとして池上遼一が描いていた時期があったらしい。「別冊少年マガジン」に、各回100ページ程度一挙掲載でやっていたようだ。主人公は小森ユウという高校生で、アメリカの原作コミックでも悩めるヒーローだったスパイダーマンを、池上遼一がさらにさらに悩める高校生として描いていて、けれど、どういう理由かは知らないが、途中からそのストーリーを平井和正が担当するようになった、この「人狼、暁に死す」は、そのスパイダーマンの1エピソード、「スパイダーマンの影」をほとんどそのままアダルト・ウルフガイ作品に書き直したものだったのだ。

池上遼一版「スパイダーマン」はかなり暗い作品で、開始当初はまだ池上遼一の作画もいかにも少年マンガという感じだったのが、平井和正がストーリーを担当する頃になると、なんともダークな感じの、今の池上遼一の絵に少し近づいたかなという感じになっていた。「スパイダーマンの影」は、平井和正の暗い物語と池上遼一の暗い作画が見事にあいまった暗い作品になっている。

そんなだから、アダルト・ウルフガイになった「人狼、暁に死す」もやっぱり暗い暗い作品だったのだ。

事故で死に瀕していた少年・北野光夫に輸血を申し出たおれは知る由もなかった―まさか、人狼の強力無比な活力までも光夫の体に与えられようとは! 生来の残忍さに加え、狼男の凶暴な力をも得た彼はやがて、大企業を相手に略奪の限りを尽くし始める。原因を作ったおれの心は大きく揺れたが、悲劇はまだ始まったばかりだった…。
これは角川文庫版の惹句だが、「読んでみたい」と思わせるきっかけとなったハヤカワ文庫の紹介文には、「おれと光夫、二人の狼人間の激突は避けられない運命だった!」のような表現がされていて、ヒーローに憧れる、仮面ライダー1号2号同士の戦いにワクワクする少年としては、「おっ、狼男同士の対決!」と期待して手を延ばしたものだったのだ。
それが、冒頭から陰々滅々と化した犬神明の索漠たるストーリーである……が、これがやはりとても面白かったのだ。のちに平井和正は、プロットを流用したウルフガイのエピソードには明白に光と熱が欠けている、と自嘲していたが、それがこの作品を言っているのなら、自己卑下しすぎというものだ。確かに、犬神明のキャラクターが若干高校生の小森ユウを引きずっていて、「狼男だよ」より時系列的に前なんじゃないかと思わせる点もあるのだが、それは今だから思えることで、単体のアダルト・ウルフガイのエピソードとして、「人狼、暁に死す」は暗く、重く、つらく、厳しい、そしてとても面白い、魅力的な、物語になっていた。高校生小森ユウの「スパイダーマンの影」ではあり得なかった、最後の犬神明の述懐は、「狼男だよ」と軽快に登場した「青春」が終わったのだ……と、そんなふうにも感じさせる「宣言」にも思える。

この直後に「リオの狼男」を読むと、これの冒頭はどちらかといえば「狼男だよ」の印象に近いので、あるいはやはり「リオの狼男」+「人狼地獄篇」→「人狼、暁に死す」→「虎よ!虎よ!」という順に読める角川文庫版の配列が望ましいのかもしれない。(ただ、それはそれで「狼よ、故郷を見よ」の次が「リオの狼男」になって、やはり不連続性は生じるとも思うのだが)

北野光夫、北野雪子の姉弟と、犬神明。彼らの迎えた哀しく、怖く、冷たい結末は、たとえそれが「スパイダーマン」の仕立て直しであっても、決して冷えた灰のようなものにはなっていない。少なくとも、最後の犬神明の感慨が、この物語を、紛れもないアダルト・ウルフガイ・シリーズとして決定づけている。そう思うのだ。

あ、今思いだしたが、ハヤカワ文庫版では、巻頭の「口絵」で、この「人狼、暁に死す」のラストを思いっきりネタバレしていた。「死霊狩り」なんかもかなりネタ割りに近かった気がするが、あれはなんとも言えないトンでもないものだったんじゃないのかな??

 
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